【体験レポート】人力で8,500kg近く回収!? “香川最強” 海ごみ拾いチームの挑戦を見た

衝撃。圧倒的スケールの海ごみミルフィーユ!

はじめまして。ライターの小坂まりえです。
縁あって香川各地にちょくちょく出没していますが、本拠地は島根県の隠岐(おき)です。
国境に近い離島、隠岐諸島。日本海と瀬戸内海はかなり違う環境ですが、隠岐と讃岐、地名だけはちょっと似てますね? 
というわけで讃岐の皆さま、どうぞよろしくお願いします。

さて、今回私が取材させていただいたのは、とある海ごみ清掃の現場です。
「海ごみホットスポットで精鋭部隊がごみ拾いするんで、レポートしてください!」とのこと。

海ごみホットスポット…?

そう言われて、どんな光景を想像するでしょうか。
「漂着ごみが大量にある場所のことですよ~」と説明され、何となく納得していました。隠岐にも海ごみは沢山流れ着くので見慣れていますし、きっとごみだらけの海岸なんだろうな、くらいのイメージです。

ところが、案内されて現場に来てみたら。



なんじゃこりゃああああ!!
こんな光景初めて見ました。ごみの多さはもとより、ごみ海岸の長さよ。全長2km以上。

詳しく聞くと、今回の取材対象は「海ごみホットスポットクリーンアップ事業」。場所は、観音寺市の三豊干拓海岸。この海岸は西向きになっており、台風による高波や冬の季節風によって多くの海ごみが漂着します。県外からやって来るごみも当然あるでしょう。

海側には大量の消波ブロックが設置されており、そのブロックを越えて堤防側に入り込んだ海ごみがそのまま残り、溜まる。それを何十年と繰り返した結果、ブロックと堤防に挟まれたエリアに大量の海ごみが積もり積もっている・・・。

香川県はこの海岸を、第3次香川県海岸漂着物対策等推進計画で最重点区域に指定。要は、県のブラックリストに載っている、海ごみ的な激ヤバエリア。と同時に、「ここを何とかできたら対策の大きな推進力になる!」という最重要エリアです。それが海ごみホットスポット。

それにしても、とにかく圧倒的な海ごみの量です。小さなごみから大きなごみまで、危険なごみ(注射針とか)やアダルトなごみ(ビデオとか玩具とか)から可愛いごみ(ぬいぐるみとか)まで、多種多様の物質が、ぶ厚い層になっている。

通常は関係者以外立入禁止の場所になっているため、定期的なクリーンアップが行われていないということも、多くの海ごみが溜まりゆくまま放置されている原因の一つでもあります。


香川県三豊市 海ごみホットスポット

(※)事務局提供。数年前の同海岸の様子

ごみの量が途方もないのは一目瞭然ですが、このクリーンアップ事業の主催団体である一般社団法人かがわガイド協会の事務局長、森田桂治さんは、あくまでも爽やかに、こう仰る。

「10日間、昼間の干潮時間帯(約4~5時間)にみっちり拾って、ここを綺麗にします!」

何の修行ですか…と言いたくもなりますが、何なんでしょう、この森田さんの迷いなき笑顔。くもりなき眼。
どうやってここを綺麗にするのか。クリーンアップ部隊として出動するという、かがわガイド協会のメンバーとは一体どんな猛者たちなのか。


お手伝いを覚悟して、遠路はるばる隠岐から作業着と長靴を持ってきた私ですが、大丈夫だろうか…腰を痛めないだろうか…日焼けしないだろうか(さすが瀬戸内、山陰とは日照のレベルが違う!)…等々、わくわくビクビクどきどきしながら始まった体験取材。

この記事では、海ごみ拾いと地元愛に関しては香川のトップ集団と言ってもいいメンバーたちが、笑いながら、時に疲労で無になりながら(笑)海ごみと格闘する現場に立ち会い、目の当たりにしたことを、リアルにお伝えします。


香川県三豊市 海ごみホットスポット

(↑)さっそうと現場に降り立つ森田さん(左)

現場で知る、海と暮らしのリアルな繫がり

時は2月半ば。立春を過ぎたとはいえまだ寒い早春です。三豊干拓海岸のクリーンアップ現場は、砂浜と違って足元が悪く、時々ごみの沼(海だけど)にハマります。


今回の対象エリアは、南北にのびる海岸の南側約600m。
各人が拾ったごみを入れていくのは、30リットルのごみ袋。拾うだけでなく調査も兼ねているため、分類して計量しながらの回収です。分類ごとの重さと容積を把握するのが目的です。

回収時の分類は、以下の8つ。

①発泡スチロール
②カキ養殖パイプ
③その他プラスチック
④ペットボトル
⑤ビン、缶
⑥液体入りペット、ガラス、金属
⑦危険物(スプレー缶、ライター等)
⑧その他(粗大ごみ)

ごみを拾って袋に入れたら、お次は計測です。各ごみ袋をフックで引っ掛けて重量を計測し、リストに記入して、搬出用の大型袋に5分類で詰めていきます。


みんなが「トン袋」と呼ぶ、1トンのフレコンバッグ。本当に、大きい・・・。


トン袋の5分類は、下記の通りです。

(1)プラスチック(ごみ袋分類の①、②、③)
(2)不燃1(同④、⑤)
(3)不燃2(同⑥)
(4)危険物(同⑦)
(5)粗大ごみ(同⑧)


また、ごみの発生源や経路を把握する手がかりとするため、出処が分かるモノは記録します。
例えば住所や店名などがプリントされているライター、ゴルフボール、看板などです。


ごみの中で多いのは、発泡スチロールの破片とペットボトル。浮きやすいので波に運ばれてくるのです。この有様を見ていたら、そもそものペットボトル消費量を減らさんとラチがあかんわ~…と痛感します。やはり大事なのは日々の暮らし。生活ごみを減らすには、日常の意識から変えていかないと…。(マイボトル賛成!!)


広島周辺海域で使われている、カキ養殖用のパイプも多いです。
カキパイプはじめとしたロープなどの漁具、マルチや苗箱などの農具もあります。


注射器などの医療ごみは、見つけるとドキッとしちゃいます。
ドキッとすると言えば、アダルト系のアイテムも多々!詳細は割愛しますがバリエーションがいろいろと…。これらも紛れもなく人間の暮らしのリアル。道路側からの不法投棄もあると思われます。まさに割れ窓理論です。(=ごみが大量に放置されているせいで犯罪を起こしやすい環境となり軽犯罪が多発する)

それにしても凄まじい積み重なり具合で、ひどいところでは1m以上の堆積です。
ごみ拾い、というか、もはやごみ掘り…。


そんな状況ですが、今回のクリーンアップ部隊は動じません。というかもはや麻痺?(笑)
慣れた感じでテキパキテキパキと作業を続け、お喋りしながらなのにすごいスピードで手も動かします。

そう、皆さんよく喋るのです!これも、つらい作業を明るく続けていくコツなのでしょう。
「刺激臭キター!!」と突然叫ぶ人がいて、何かと思ったらオムツだったり。
「ギャー!目にマイクロプラスチックが入ったー!」と大騒ぎ、大笑いしてたり。
私が「どれを拾ったらいいか分かりません!」と言えば、「考えるな!感じろー!!」とくる。

本当に陽気でユニークな面々ですが、海ごみ拾いに関してはさすがプロ。
私が取材したのは2日間だけでしたが、集めた海ごみの量は…
初日(2/16):800kg
2日目(2/17):551kg
両日ともに作業時間は約4時間、人数は6〜7人で、この回収量です。聞けば、作業期間の10日間のうち人数が多い日では一日の回収量が1トン(!)を超えたこともあったのだとか。


この海岸の海ごみを見て、強烈に印象に残ったのはマイクロプラスチックです。放置されたプラスチックごみが、破片となりマイクロ化して再び海へ流れ出ていることがありありと分かりました。


この三豊干拓海岸からは伊吹島が目の前に見えます。伊吹島といえば、美味しいイリコだしが特産品として有名。ごみ拾い中、「プラスチック満載のイリコなんて嫌だよな~…」とつぶやく声が聞こえて、本当にそうだよな~としみじみ。
食と海の繫がりが目に見えやすい、こういう場所で海ごみ拾いを実践し、その様子をこうした記事等で発信していくことに大きな意義がある。ライターとして背筋が伸びる思いです。

また、クリーンアップ部隊に女性が多いのにも驚きました。溌剌としてパワフルな女性たちは、まさにムードメーカー。しんどい作業が続く中、彼女らの存在意義はとても大きいのです!


海ごみ拾いの猛者たちは、「里海ガイド」・「海ごみリーダー」!

“香川最強”の海ごみ拾いチームって、どんな人たち?って気になりますよね。
現場でご一緒した何人かにお話を聞いてみました。

まず、「えっ…速っ!!」と、そのごみ拾いスピードに度肝を抜かれた女性、田中真利子さん。愛称マリちゃん。その作業の速さは、つい見とれてしまってしばらく声をかけられなかったほど。他のメンバーからも、「彼女の手際の良さは別格」と一目置かれています。


マリちゃんは三豊市出身で、瀬戸内海に突き出た荘内半島が地元エリア。子どもの頃から浜辺で遊び、シーグラスを拾うのが大好きだったそう。でもいつからか、海ごみの増加が気になるようになったと言います。

「もともと海ごみ活動とは何の関わりもない普通の主婦だったんですけど、たまたまアーキペラゴ(※まちづくりや環境保全に関わるNPO法人)のビーチクリーンに参加して、新しい世界と出会いました。シーグラス以外の漂着物を“お宝”って言ってる人を初めて見たし(笑)、海ごみに関して知らない話をたくさん聞けてすごく楽しかったです。そのあと里海ガイド養成講座(※詳細は後述)を受けて、いろいろ学びました。海ごみって自分とは遠い話だと思っていたけど…私にも出来ることがあるんだ!って気付いたのが大きな変化。2020年からビーチクリーンの団体を立ち上げて活動を始めてます」(マリちゃん)

マリちゃんは現在、『Design The Earth』という団体で2ヶ月に1回、三豊市を拠点にビーチクリーンを開催しています。心がけているのは、学びつつ楽しめるイベントであること。子どもから大人までが笑顔になれること。

「海を綺麗にしたい、好きな場所を守りたい!という気持ちでやっています。ガイド協会には同じような想いをもった仲間がいて、いつでも相談できる人たちがいるから続けられる。森田さんはじめ、みんな楽しそうでしょ。だから私も関わりたくなるんよね。自分がやってるビーチクリーンでも、子どものためにゲームを取り入れたり、ごみ拾いの合間にトークを挟んだり、いろんな工夫をしてます。プラン作りには、里海ガイド養成講座で学んだことが役立ってます」(マリちゃん)


次にお話を伺ったのは、小笠原哲也さん。愛称てっちゃん。高松出身。本屋さんやギャラリー、ゲストハウスの運営をする傍ら、最近は海ごみ対策にまつわる活動が増えているそう。


「森田さんのことは昔から知っていたけど、海ごみにはあまり関心がなくて…。でも長男が生まれた頃から意識が変わってきました。アーキペラゴの海ごみボランティアをしたことがきっかけで、より深くコミットしたくなり、里海ガイドになりました。ボランティアって、時間がたっぷりあるシニア層が多いって思われがちだけど、現実はそうでもない。若い人がスキマ時間にやってることが多いし、そういう活動をしやすい社会がいいと思う。僕自身は今後、ガイド講座で身につけたことを生かして、キャンプ場などを拠点に海ごみ講座を開催していきたい」(てっちゃん)


そしてこちらは、谷光承(みつよし)さん。愛称ヨシさん。高松出身。


里海ガイドの1期生、つまり里海ガイド歴は最長で、かがわ海ごみリーダー(=香川県海岸漂着物対策活動推進員)でもあり、それぞれの養成講座を運営するサポート役もしています。


「拾うだけでは終わらないのが海ごみ問題。クリーンアップをやるなら、参加者に自分たちの生活から海ごみが出ているんだと認識してもらい、ごみの発生を抑制するところまで考えないといけません。そのために、ICC(=International Coastal Cleanup。国際海岸クリーンアップ)という世界共通の調査方法を取り入れたりして、拾ったごみを分類し何が多いのかを把握します。見える化することによって海ごみと暮らしとが繫がる。自分の暮らし方を変えないと海ごみは減らないんだと納得できれば、皆さんに当事者意識が生まれます。それがとっても大事なことなんです」(ヨシさん)


「クリーンアップなどのイベントを単発的にやるだけではなくて、仲間を増やすこと、リーダーを育てていくことに時間とお金を割くべきですね。海ごみ清掃って、土木業者がやれば一気に終わるだろうけど、長い目で見たらそれではダメだと思うんですよ。一般の市民がやって、SNS等で発信して注目されて広がっていく。そういう流れが理想です。そのためにも、巻き込み上手な海ごみリーダーをもっと増やしたい」(ヨシさん)

行政と仕事をすることの多い森田さんによると、香川県は、「環境保全への取り組みが全国自治体の中でもトップクラスに熱心!行政と市民の二人三脚がちゃんとできています」とのこと。県の環境管理課が主管で、県内全域の関係者をネットワーク化して「山・川・里・海を一体的に捉えて保全・活用していく里海づくり」を進めており、これに関わる人材育成や啓発に力を入れています。

その一環で、香川県と香川大学が協働して立ち上げたのが、「かがわ里海大学」。学長は池田豊人香川県知事です。
大学と言っても、校舎も入学試験もありません。かがわ里海大学では、まずは海と親しむ方法を知る『スタートアップ』から始まって、里海や海ごみを学ぶ『ステップアップ』、さらに里海ガイドや海ごみリーダーとして知識を深める『スキルアップ』という3つのレベルに分けて、さまざまな内容の講座を開講しています。その最高レベル『スキルアップ』の講座ラインナップの中に、里海ガイド養成講座(基礎・応用)や海ごみリーダー養成講座もあります。

里海ガイドとは、情報を提供するだけのガイドではなく、その里海に関わる地域や人の魅力もしっかりと伝えて、地域全体を元気にすることを目指す人のことです。
かがわガイド協会の会長である小前昭二さんの言葉を借りると、
「地域の人を巻き込んで、一緒にツアーを創り上げるのが里海ガイド。地元の人は、地域の歴史や良いところをたくさん知っていますが、外部から来た人にそれを伝えるノウハウが十分ではありません。だから、ツアーやアクティビティに参加されたお客様と地元の人との間に入って、全体をコーディネートしながら地域の魅力を引き出して共有するのが、僕たち里海ガイドの仕事です」


香川県三豊市 海ごみホットスポット

(↑)かがわガイド協会の会長、小前さん(左)

小前さんによると、里海ガイド養成講座では、ガイドの心構えから基礎スキル全般、リスク対応、フィールドの魅力を生かしたプログラムデザインなど、必要な知識とノウハウを実践を通して一から学べるそう。
この里海ガイド養成講座と、調査や分析などを含む海ごみ関連活動を主体的に行うための海ごみリーダー養成講座を両方修了すると、海ごみ対策のプロ人材として、県のお墨付きを得られるというわけです。

今回の大規模クリーンアップ参加メンバーの多くは、里海ガイドでもあり海ごみリーダーでもある面々。やはり、海ごみに関しては“香川最強”のチームだったのですね…!


香川県三豊市 海ごみホットスポット

(↑)かがわガイド協会の副会長、松野さん

海ごみを切り口に、ポジティブ・スパイラルを回す

今回の体験取材で分かったのは、海ごみ問題のシビアさ。と同時に、立ち向かう術はある、ということです。

里海ガイドや海ごみリーダーのような、専門的な知識や技術に加えて地元愛をもった人材を計画的に育成して着実に増やす。そしてその仲間どうしを繋ぐ仕組みが、かがわ里海大学を中心に構築されている。彼らはガイドやリーダーという肩書きですが、まちづくりに繋がるキーパーソンといった感じで、いろんなミッションに応じられる人たち。そして彼らが所属するかがわガイド協会という組織がうまく機能していて、横の連携が取れている。
ガイドやリーダーがそれぞれ地元でクリーンアップ等の自主的・自律的な活動を続けることで、子どもやその親御さん達への啓発が進む。時間をかけて、多くの人の意識を変えていく。暮らしの意識を変えることができたら、プラスチックごみは確実に減る。

これは極めてよく練られた、戦略的かつ持続的な取り組みです。このサイクルが回っていけば、香川の海を、健全な暮らしを、守っていける気がする…!と、希望を感じました。

一連のプロジェクトの仕掛け人のひとりである、森田さん曰く…
「里海大学の創設からガイド協会の立ち上げまで最初からずっと関わっていますが、この僕自身が、仲間で力を合わせることのすごさを実感しています。まさに、点が面になってパワーアップしていく感じです。県民の環境保全意識は間違いなく高まっていて、人材育成は軌道に乗ってきた。さらに活動を広めて定着させていく鍵は、各地のコミュニティどうしをうまく繋ぐことだと思っています。これからは積極的にその後押しをしていきたい。世代を超えて、楽しみながらいろんなノウハウを共有して、海が大好きな仲間を増やしていきたいな」


あくまで楽しむ、海と親しむことが大事。それでこそ、海を守りたい仲間が増えるんですね!

【後日談】

2月26日(日)、海ごみホットスポットクリーンアップ作戦の最終日。池田豊人香川県知事と佐伯明浩観音寺市長が視察に訪れ、海ごみ回収作業にも一部参加されたそうです。

この日は、一般社団法人香川県産業廃棄物協会(※かがわガイド協会と共にこの事業を共催)の協力でクレーン車が出動。海ごみが詰め込まれた約140袋ものトン袋、重さにすると約10.4トン(!)もの海ごみを、クレーン車で吊り上げて搬出しました。
そのうち、かがわガイド協会の皆さんが10日間の活動で回収した海ごみの累積は、約8,500kgとのこと。人力ですよ!?すごすぎる!


香川県三豊市 海ごみホットスポット

(※2月26日の写真は事務局提供)

前代未聞の大規模クリーンアップに挑んだ皆さん、本当にお疲れさまでした。
今回の取材で、これからも続く長い長い挑戦の、画期的なワンシーンを見せていただきありがとうございました。
香川県の先進的な海ごみアクション、引き続き注目させていただきます!

記事:小坂真里栄(隠岐在住・香川大好きライター)